
1981年5月以前に建てられた旧耐震基準の物件は、現行の新耐震基準と比べて耐震性能が劣ります。また、買い手にとっていくつかのデメリットがあるため、旧耐震基準の物件は現行の基準の物件よりも売りにくいと言えます。
しかし、デメリットが多い物件でも、売れにくい理由と売るためのポイントを理解すれば、売却できる可能性が高まります。そこで本記事では、旧耐震基準の物件が売れにくい理由と、売るためのポイントを詳しく解説します。
そもそも旧耐震基準とは

旧耐震基準とは、1981年(昭和56年)5月以前に適用されていた耐震基準を指します。同年6月1日に建築基準法が改正され、それ以降の建物には新耐震基準が適用されています。
ここでは、旧耐震基準の判断基準や新耐震基準との違いについて詳しく見ていきましょう。
旧耐震基準かどうかを判断するには
所有物件が旧耐震基準かどうかを判断するには、建築確認済証の交付日と新旧耐震基準の切り替えタイミングを確認することで可能です。耐震基準の適用は、原則として工事の着工日に基づいて決まります。
ただし、古い建物の場合、当時の書類が整備されていないことが多く、着工日の記録が確認できない場合があります。その場合は、工事着工前に交付される建築確認済証を参考に、おおよその着工日を判断します。
新旧耐震基準の切り替え直前に建築確認済証が交付され、着工日が新耐震基準施行後である物件については、新耐震基準が適用されます。これは、着工日が新耐震基準施行後であるため、旧耐震基準の仕様で工事を進めると違法建築となるからです。つまり、建築確認の変更申請を行い、新耐震基準に適合した建物を建てる必要があります。
以上のことから、旧耐震基準かどうかの判断は建築確認済証の交付日を確認することで可能です。
新耐震基準との違いとは
旧耐震基準と新耐震基準には耐震性能に大きな差があります。
旧耐震基準は、震度5強程度の中規模の地震を想定しており、建物が倒壊しない強度を有しています。また、震度5強の地震で破損しても補修によって継続使用が可能な建物であることを義務付けています。
一方、新耐震基準は、震度5強の中規模の地震ではほぼ損傷がなく、震度6〜7程度の大規模な地震でも倒壊しない耐震性能を有することを義務付けています。
1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災では、新・旧耐震基準の耐震性能差が実際の被害に顕著に現れました。旧耐震基準で建築された住宅の63.5%が大破・中破以上の大きな被害を受けたのに対し、新耐震基準で同等の被害が発生したのは23%程度でした。
この実被害からも、新・旧耐震基準の耐震性能には大きな差があることが明確に示されています。
耐震基準の法改正は平成12年にもあった
木造住宅において、新耐震基準は2000年(平成12年)6月に導入されました。この基準は、阪神淡路大震災の教訓から、震度6強〜7の地震に対して倒壊しないことを目指して設定されました。
しかし、実際の被害状況から、特定地域では約3割の木造建物が倒壊を含む大きな被害を受けています。このことから、木造住宅の耐震基準見直しが必要とされ、基準が再度改定されました。
具体的には、木造住宅の基礎や接合部の仕様、壁配置のバランスなどが阪神淡路大震災の被害調査を元に改善されました。これにより、木造住宅でも震度6強〜7の地震に耐える建物が実現可能となりました。
ただし、1981年6月以降〜2000年5月までに建てられた木造住宅は、新耐震基準には適合しているものの、2000年の耐震基準には適合していないということになります。これらは既存の不適合建築物として扱われますが、現在住んでいる分には問題ありません。ただし、建て替える際には現行の基準に合わせる必要があります。
旧耐震基準の物件が売れにくい理由

旧耐震基準の建物が売れにくい理由が、直接的な耐震性能以外にもいくつか存在します。
築年数が古い
新耐震基準が施行されて約40年が経過したため、旧耐震基準で建てられた建物は築40年以上になります。このような古い建物は、確実に老朽化が進んでいます。
具体的には、設備や内装のリフォームだけでなく、耐震補強リフォームなども必要とされます。これにより、購入者が安心して住み続けるためには多岐にわたる工事が必要となるでしょう。
築40年の建物をフルリフォーム・リノベーションする場合、完全な新築の6割程度の額がかかると考えられます。このような大きな費用がかかるため、古い建物の購入にはそれなりのリスクとコストが伴うことになります。
そのため、築浅の新しい物件と比較して、築40年以上の古い建物の購入が魅力的でない場合が多いです。築浅物件との価格差があまり大きくない場合、多くの人が築浅物件を選ぶ傾向があります。
住宅ローンの審査が通りにくい
旧耐震基準の住宅は、一般に住宅ローンの審査が通りにくい傾向があります。たとえば、長期固定金利住宅ローンのフラット35では、「建築確認日が昭和56年6月1日以降であること」という条件が明記されています。
この審査が通りにくい理由は、物件が担保として金融機関にとって成立しにくいからです。
住宅ローンの審査では、借入希望者の属性だけでなく、購入する物件が担保として適切かどうかも審査されます。物件を担保として設定することで、万が一借入者が返済に困難をきたした場合、金融機関は物件を競売にかけて回収することができます。
しかし、旧耐震基準の建物は耐震性能が低いため、競売での売却価格が確保できないリスクがあります。そのため、金融機関はこのリスクを避けるために、旧耐震基準の建物に対する融資を控える傾向にあります。
このように、住宅ローンの審査が通りにくい理由は、旧耐震基準の建物が担保として成立しづらいためであり、金融機関がリスク管理の観点から慎重に審査を行っていることが主な要因です。
住宅ローン控除が使用できない
旧耐震基準の建物では、住宅ローン控除の適用が制限されています。具体的には、住宅ローン控除の要件には「昭和57年以降に建築または現行の耐震基準に適合」が記載されており、旧耐震基準の建物はこの要件を満たしていないため、控除を受けることができません。
旧耐震基準の建物で住宅ローン控除を利用するためには、まず現行の耐震基準に適合させる必要があります。具体的には、耐震補強工事を行い、その後「耐震基準適合証明書」を取得する必要があります。この証明書を取得するためには、建築士などの専門家による耐震診断に合格することが求められます。
耐震基準に適合させるための工事や診断には費用と時間がかかるため、旧耐震基準の建物で住宅ローン控除を利用することは高いハードルがあります。
住宅ローン控除は大きな節税措置となるため、その恩恵を受けることができない旧耐震基準の建物は一般に選ばれにくい傾向にあります。そのため、購入者や金融機関としても、耐震性能の低い建物に対するリスクを考慮し、避ける傾向が強いです。
住宅購入資金の贈与税免除が適用できない
住宅の購入資金を両親や祖父母から援助する際、一定の金額までは贈与税が免除される制度があります。
ただし、中古住宅の場合は贈与税免除を受けるには、現行の耐震基準に適合していることが条件とされています。旧耐震基準の建物でも耐震改修を行い、耐震基準適合証明書を取得すれば、贈与税免除の適用が可能ですが、そのためには手間と費用がかかります。
具体的には、耐震補強工事を行い、建物が現行の耐震基準に適合することを証明する必要があります。しかし、この工事や証明のためには多額の費用が必要であり、これらのコストを負担するのは現実的ではない場合があります。
したがって、旧耐震基準の建物で耐震改修を行うことにより贈与税免除を受けることは理論上可能ですが、実際には費用や手間が大きなハードルとなる場合があります。
地震保険が高額になる
旧耐震基準の物件では、地震保険の費用が高額になることも大きなデメリットの一つです。
地震保険では、建物の耐震性能が高いほど割引率が増える仕組みが採用されています。そのため、旧耐震基準の物件は耐震性能が低いため、地震保険の割引が適用されず、保険料が高額になります。
日本は地震が頻発する地域であり、多くの住宅所有者が地震保険に加入しています。しかし、旧耐震基準の物件は耐震性が不足しているため、地震保険の費用が割高になり、その負担が重くなると言われています。
このように、旧耐震基準の物件では地震保険の割引が適用されず、保険料が高額になることが、購入者や所有者にとって大きな負担となる点です。
旧耐震基準の物件を売却するには

売れにくいとされる旧耐震基準の物件でも、条件を満たしポイントを押さえていれば売却できる可能性は十分にあります。
旧耐震基準の物件を売却する際の条件やポイントは以下の通りです。
立地が良ければそのまま売却する
旧耐震基準の物件でも、立地条件が良好である場合はそのまま売却できる可能性があります。
不動産を購入する人々の優先事項は多岐にわたります。例えば、利便性の高さや交通アクセスの良さが重要視されることもあります。新築や中古にこだわらず、立地条件を最優先に考える購入者も少なくありません。
良好な立地条件があれば、購入希望者はその物件をリフォームして住むことを考える場合もあります。
不動産を売却する際には、不動産会社との相談が重要ですが、まずはそのまま売却活動を開始し、市場からの反応を見極めることも一つの手です。物件の魅力や改善のポイントを十分に伝え、購入者のニーズに合致するよう努めることが大切です。
立地条件が良好な物件であれば、適切なマーケティング戦略と柔軟な対応で、旧耐震基準の物件でも売却を成功させることが可能です。
耐震基準適合証明書を取得後に売却する
戸建ての場合、旧耐震基準の物件でも耐震補強工事を行い、耐震基準適合証明書を取得することでデメリットを改善し、売却がスムーズに進む可能性が高まります。
以前述べたように、旧耐震基準の物件のデメリットには住宅ローン減税の利用ができない点や、住宅ローンの審査が通りにくいという問題があります。
耐震補強工事を実施し、新耐震基準に適合するようにすれば、これらの問題が解消され、買い手に対するアピールポイントとなります。
ただし、耐震補強工事と耐震診断のためには以下のような費用がかかります。
- 耐震補強工事:100〜200万円程度
- 耐震診断・耐震補強工事完了確認:20〜50万円程度
これらの費用は耐震性能の向上に直結し、地震保険の割引条件である耐震等級を最高レベルの3等級まで引き上げることが可能です。
耐震補強の範囲や性能向上の度合いは、物件の成約価格と手元に残る金額を考慮して決定するべきです。
また、耐震補強工事や耐震診断を行う際には、多くの自治体で補助金が交付されることがあります。売却物件が属する自治体のウェブサイトを事前に確認し、補助金制度を活用することも重要です。
これらの工事と補助金を活用することで、旧耐震基準の物件でも市場での価値向上が期待でき、売却を成功させるための道筋が明確になります。
売主がリフォームをする前提で売却する
物件の見た目を良くするためにリフォームを行うことが、売却をスムーズに進めるための方法と考える人もいますが、注意が必要です。実際には、売却前に自主的にリフォームを行うことで売れにくくなる場合があることがあります。
中古住宅を購入する人の多くは、自分の好みやライフスタイルに合わせてリフォームを行いたいと考えています。そのため、売主が自主的にリフォームを行ってしまうと、購入希望者の層を狭めることになる場合があります。加えて、売主が行ったリフォームが必ずしも査定額や最終的な成約価格を引き上げるとは限らないため、コストと労力が無駄になることもあります。
もし売却前にリフォームを検討する場合は、必ず不動産会社と相談し、そのプランを具体化しましょう。不動産市場やターゲットとなる購入者層を理解した上で、どのようなリフォームが効果的かを判断することが重要です。また、リフォーム費用は売主が負担する必要がありますが、その投資が売却価格や売れ行きにどう影響するかを慎重に考えることが必要です。
古家付き土地または更地として売却する
旧耐震基準の戸建て物件は通常、築年数が40年以上経過しており、構造が木造であれば建物の資産価値はほぼゼロに近い場合があります。このような場合、販売する際には以下のような戦略が考えられます。
まず、買主が建物の取り壊し費用を見越して市場相場よりも価格を下げ、古家付きの土地として売却することがあります。これにより、買主は比較的安価で土地を取得することができ、お買い得感が増します。
また、解体費用を売主が負担し、更地にする方法もあります。この場合、更地にすることで土地の用途が広がり、購入層が広がります。古家付き土地よりも高値で売れる可能性が高まることがあります。
ただし、解体には費用が必要であり、また解体後に再建築できない場合もあることを考慮する必要があります。そのため、売却前には不動産会社と相談し、具体的な戦略を検討することが重要です。
これらの選択肢を検討する際には、物件の状態や市場動向、買主のニーズなどを総合的に考慮し、最良の売却方法を見極めることが求められます。
業者による買取を利用する
買い手が見つからずに困っている方には、業者による買取も一つの選択肢です。
業者買取の場合、売却価格は市場相場よりも安くなることが一般的ですが、その代わりに取引がスピーディに進みます。最短で1週間程度で買取り資金が振り込まれることもあります。
特に半年以上売却活動を続けても買い手が見つからない場合や、ローンの返済期限が迫っている場合などは、買取りを検討するメリットが大きいでしょう。
買取りは即金での取引となるため、売却期間の不安を解消し、迅速に資金を手にすることができます。ただし、市場相場よりも価格が低くなることを理解したうえで、業者選びを慎重に行うことが重要です。
不動産の売却については、個々の状況やニーズに応じた最適な方法を検討し、利点とデメリットをしっかりと比較して判断することがポイントです。
まとめ
旧耐震基準の物件は、さまざまなデメリットがあり、そのため一般的な物件と比べて売却が難しいことが事実です。
しかし、これらのデメリットを克服し、買い手に魅力を感じてもらえる販売戦略やコツを把握すれば、完全に売れないわけではありません。
今回ご紹介したポイントを参考にし、旧耐震基準の物件の売却を成功に導いてください。
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